夜学舎

太田明日香の本を出すレーベルです

真っ赤っかになるまで原稿を見てもらえてラッキーだった

最初お金をもらって文章を書いたのは編プロに勤めていたときだった。
編プロの先輩も副編集長も厳しくて、原稿が真っ赤っかになるのはいつものことだった。
見もしないでゴミ箱にほかされたこともあった。
編プロでつけられた謎のペンネームで書いてて、自分の名前は出してもらえなかった。

文章書いたり取材したりするのは好きでも、仕事になった途端にそれは自分を100%出せるものじゃなくなる。
でもわたしはあんまりそれが嫌じゃなかった。
その代わりに金をもらっていると思っていたから、100%自由にならないことが、逆に好きなことで金を稼いでいることの証だし、そうやって自分を抑えてもものを書くことができるのがプロのライターという矜恃を持っていたからだ。

ところがここ何年か、その矜恃がものすごく乱されるようになった。
時代が変わって、そんなふうな苦労や自分を抑えることをしなくても、好きなものを書いて、インターネットで文章が気軽に発表でき、収益化もできる時代になったからだ。
それでうまく自分をブランディングしたり、いい感じに文章を書いて収益化してる人を見ると、たまに、なんで自分はあんな苦労したのに……というような感じで羨ましくなって、ものすごい虚しさに襲われることがあった。

でも、ちょっと今日違う考えが湧いてきた。
普通の人はよっぽどのことがない限り、原稿が真っ赤になるまで直される経験はしないはずだ。
今、ライタースクールとかプロのライターによる添削講座がはやってる。
よく考えたら、あれはみんなお金を払ってわざわざそれを受けているのだ。
自分はライターとして働き始めた早い時期に、お金をもらって直してもらったんだと思ったら、急に自分がラッキーだったなと思えた。
そしたら、その副編集長のことが大嫌いで、いつか見返してやると思っていたけど、もうそんなこと思わなくていいかと思った。
ご指導ありがとうございましたと、辞めて10年経って心の底から思えた。

この記事にも書いたように、考え方のくせなのか性格なのかわからないけど、
わたしは自分が損してるかもって不安がものすごく強かった。
損してると思ったら人への不満になるけど、ラッキーだと思えたことで、
急に感謝の気持ちが湧いてきた。
自分の中でものすごい価値観の転換が起こってよかった。
なんであそこまで言われないといけないんだろうとか、
なんであんなことされないといけなかったんだろうみたいな、
わたしの憎しみみたいなのが成仏していって、本当によかった。

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