夜学舎

「書く」にまつわる日記

「好きなことを仕事に」とはどういうことか

よく考えたら今年の1月でフリーになって10年経った。
本当だったらめでたいはずだけど、去年から編集の仕事に全然やる気が出ない。
本を作るのは時間と体力がかかる。
それをフリーでやってたら、全生活を仕事に投入する感じになる。
それにコロナが重なっていろいろ疲れてしまった。

やる気が出ない理由の一つが、本を作るのが好きかわからなくなったことだ。
前は内容はどんなものでも、ゲラを見るだけで楽しかったのに、
去年はゲラを見るのが苦痛で、仕事が楽しいと思えなくて辛かった。
「仕事が楽しいものじゃない」とか、「仕事が辛いものだ」という意見とか、
「仕事というのは苦しいことに耐えてお金をもらうものだ」みたいな意見がある。
そういうのと別に、前は編集はわたしにとって仕事だけど、
それとは別に「ものを作っている」みたいな矜恃があって、
それがあったから安かったり長時間労働だったり直しが多くても平気だった。
だから「本を作るの楽しい」とか、「本はお金じゃない」とか思えた。
でも、最近そういう意見を見るとイライラするようになった。

「好きなことを仕事に」っていう言葉がある。
わたしはその言葉を真に受けてたから、
好きなことを仕事にしたのに、どうして楽しくないんだろうと思ってた。
でも好きなことを仕事にしたから辛くなったんだと思う。
仕事には2種類あって、お金のためじゃない手仕事とか、
生活に必要な服とか焼き物を作るとか、
一生かけてやる研究のようなお金をもらわないけど
自分にとってはやる意義のあることという意味での「仕事」と、
お金のために我慢して労働力を売る「労働」とがある。
キャリア支援とかでこの言葉が使われるときの意味は、
本当は「好きなことを労働に」なんだと思う。
好きなことだったら我慢の度合いが低くなるから、
「労働するなら好きなことの方がいいですよ」ってことなんだと思う。
10年の間に、わたしの中でいつの間にかいろんなバランスが崩れて、
自分の中で本を作ることが「仕事」から「労働」になっていって、
それが辛かったんだと思う。

本を作るのに、長時間労働とか、直しが多いとか、スケジュールの調整とか、
変更が多いとか、理不尽なことを言われるとか、いろいろあっても、
本ができると思ったら平気だった。
それが世の中に出て、誰かの役に立つと思えるから平気だった。
でも、業界とかSNSとか見てると、本は一冊一冊が一つの世界で、
それぞれ比較するものじゃないのに、
比較して競争してみたいな感じになる。
そしたら自分のやってることが「世界に資する崇高な仕事」みたいな感じから
「労働」に引き下げられる感じがする。
それとフリーでやってるとすぐ「売り上げ何円」て考えてしまうから、
どんなにいい内容とか役に立つ本でも、
「こんながんばっても結局○○円か」と思ってしまう。

好きなことを仕事にするのはロマンがある。
でも好きなことを仕事にしたから楽しいかといったら、
そういうわけではないと思う。
好きなことを仕事にするとは別の形で、お金をもらう方法を確保しておいて、
好きなことを好きなままで置いておくような余地を残しておかないと、
好きなことが労働になって、好きじゃなくなってしまうことがある。
そうじゃないと辛くて、好きなことが嫌になってしまう。

今ちょっと休んで、お金に関係なく本を読んでたら
また少し好きという気持ちが戻ってきたからよかった。
今後はもう少し仕事の仕方を考えたい。

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